【ジョイセフ活動報告2025】東京で走ったその先で――ランナーの寄付が、ケニアと日本の「包括的性教育」の普及に生かされています
2026.02.04 ジョイセフ
皆さま、こんにちは! 国際協力NGOジョイセフです。私たちは、女性や弱い立場の人々の命と健康が守られ、誰もが自分の人生を自分で決められる世界をめざして、これまで43の国・地域*で活動してきました。 東京マラソン2025チャリティでは、国内外から52名のチャリティランナーが参加し、ジョイセフを応援してくださいました。
その寄付はケニアと日本で、若い世代の未来を変える「包括的性教育」を推進するために活用されています。本記事では、現場での活動内容と成果について報告します。

包括的性教育とは?
包括的性教育(CSE:Comprehensive Sexuality Education)は、からだやセックスに関する知識のみならず、ジェンダー平等や人間関係、性の多様性などを含め、「人権」をベースに性について幅広く学ぶ教育プログラムです。こうした学びを通して、健康で自分らしく生きるために必要な知識やスキルを身につけます。ユネスコによる「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」が、包括的性教育の国際的なガイドラインとして位置づけられています。
包括的性教育は、一人ひとりが「自分らしい人生」を大切に生きていくための土台になるもの。一方で、ケニアと日本には、包括的性教育が公的に十分実施されていないという共通の課題があります。東京マラソン2025チャリティを通じてジョイセフに寄せられた支援は、その現状を一歩ずつ変えていくための確かな力となっています。
①ケニア・首都ナイロビのスラム:若者たちが「人生の主導権」を持てるように
若者から人生の選択肢を奪う、過酷なスラムの現実
アフリカ最大規模のスラムであるキベラ。貧困の中で人々がひしめくように暮らしており、多くの若者が性に関する「正しい知識」がないために、人生の選択を失い、望まない生き方を強いられてきました。
ケニアの10代の妊娠率は、若者の15パーセント。日本の1パーセントに比べて非常に高い状況*です。妊娠をきっかけに退学を余儀なくされたり、シングルマザーとして貧困に直面する女の子もいます。
スラムでは、貧しくて生理用品を買うために売春を余儀なくされる「性の対価化」、ギャンググループによる性的暴力、違法で危険な中絶なども日常化しています。また、ごみ処理場や下水道がなく、清潔な水や電気へのアクセスさえ難しいインフラ環境が、衛生面での問題に拍車をかけています。
*ケニアのデータでは「若者」を15-19歳と定義。日本のデータでは10代
性教育によってエンパワーされた若い世代が、行動を変え、未来を変えていく
2025年、包括的性教育が住民主体で推進されるコミュニティづくりをめざして、ジョイセフはキベラスラムを含む3つの地域で、15歳~25歳の若者15名を「ファシリテーター(教育リーダー)」として養成しました。
包括的性教育の中核にあるのが、性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:SRHR)です。SRHRについて学びを深めたファシリテーターたちは、同世代に性に関する正しい知識を伝え、意識と行動の変化を促す若者リーダーとして活躍します。こうした「人づくり」は、一過性の支援事業とは異なり、プロジェクト終了後も地域コミュニティに根付き、前向きな変化をもたらし続けます。
養成研修によって、ファシリテーターの知識を評価するスコアは、研修前の平均61パーセントから88パーセントへと大幅に向上しました。「月経周期には個人差があるため、安全日というものはなく、避妊方法として『リズム法』では不十分」「HIV/エイズは過去の病気ではない」など、正しい知識が共有され、ファシリテーターが自信を持って人々に伝えていくための後押しとなりました。

ファシリテーターたちから届いた喜びの声
「たとえ恋人同士でも、自分の決断は相手に左右されず、自分でするものだと分かりました。罪悪感を持たずに『NO』と言える権利があると感じています」(17歳女性)
「今の決断が、自分の将来に影響するということを学びました。知識を得る機会を支援してくれた日本の皆さんに、心から感謝しています」(17歳女性、すでに出産を経験した母)
「多くの女の子が、緊急避妊薬を正しく理解せずに使っている現状があります。将来パートナーができたら、意図しない妊娠を防ぐ方法についてしっかり話し合いたいと思います」(16歳男性)
東京で走ったチャリティランナーからの支援は、ケニアの若者たちに包括的性教育として届き、一人ひとりの未来を変える力になっています。
皆さまから受け取った支援のバトンを現地に届ける私たちの活動も、マラソンに似ています。 一時的な支援ではなく、教材を整え、現地のリーダーを育て、ともに始めた活動がコミュニティに根付くまで、ジョイセフは「伴走者」として走り続けます。
②日本:全国18カ所でワークショップを開催。「性について語ること」のタブーを乗り越え、包括的性教育の推進につなげていく
日本で包括的性教育が進まない大きな理由として、性の話題がタブー視され、口に出しにくいという現実があります。そこでジョイセフは全国の7都道県・18カ所を巡り、性に関する対話のワークショップを開催しました。「性の話は恥ずかしいもの」という先入観を取り払い、ジェンダー、性暴力、避妊、そして自分自身の体について、参加者の皆さんと「本音」を語り合うことができました。
このプロジェクトは、包括的性教育の必要性に参加者一人ひとりが気づき、ともに推進をめざす力強い一歩となっています。

多様な立場や価値観の人々が、性について「本音」で語り合うワークショップ
ワークショップは全国18カ所で開催。思春期の子を持つ親、学校の教員、医師、地方議員の方々、学生など、非常に幅広い立場の方々と対話を深めました。トピックとして、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)に基づき、「性暴力」「予期せぬ妊娠」「性感染症とHPV(子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウィルス)」「ジェンダー」「プレコンセプションケア」の5つを掲げました。
「性欲は人間の三大欲求のひとつ。なのに、なぜこんなに話しづらいの?」そんな問いかけから始まった対話で、ふだんは心の奥にしまっている切実な声があふれました。
● ジェンダーとバイアス
制服や進学、職場での評価、学校や会社で男女別に振り分けられる役割、家事分担など。こうした日常生活に根強く残る「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」について議論しました。その中で、特に「マジョリティ=多数になる側」が、自身の持つ「あたりまえ」に気づくことの重要性が見えてきました。
● 予期せぬ妊娠と追いつめられる女性
思いがけない妊娠は、若い世代に限らず、誰にでも身近に起こり得ることです。妊娠について相談できずに孤立出産し、追いつめられて乳児遺棄に至るようなケースもあります。こうした時、一般的に責めを負うのは女性だけ。男性に責任を問う声が少ないことを問題視する声も上がり始めています。
ワークショップでは「もっと早く支援につながっていれば、悲劇的な事態は防げたのではないか」という意見が聞かれました。相談しやすい環境づくりが急がれます。
● 避妊に関する知識の不足
日本では包括的性教育が十分ではない中で、多くの若者が正しい避妊の知識を持たずに大人になっていきます。親や教師もそのような性教育を受けてこなかったため、子どもに教えることに不安を感じたり、避けたりしがちです。代わりに若者が性について学ぶのは、メディアにあふれる刺激的な情報や、アダルトコンテンツなど。10代の予期せぬ妊娠も増えており、一刻も早い対策が必要です。避妊を含む包括的性教育は、すべての人が正しい性の知識を身につけ、自分や大切な人の体と人生を守るためにも欠かせないものです。
● 性暴力と性的同意
ワークショップでは、「性暴力」の定義や実際に起きている問題、社会の中に存在する加害と被害を生む構造について、幅広く話し合われました。激しい暴力や脅迫を伴わなくても、同意のない性的な行為は、すべて「性暴力」にあたります。
性暴力を防ぐためには、誰もが健全な境界線を保ち、それを侵したり侵されたりしないことが重要です。そのために、人権や相手を尊重する人間関係までを取り扱う包括的性教育が大きな役割を果たします。
● 性感染症とHPV
子宮頸がんの多くは性交渉を通して感染するHPV(ヒトパピローマウィルス)が原因であること、男性がウィルスを媒介していること、そしてワクチンで感染予防が可能であること。こうした情報を「初めて知った」という声も聞かれました。世界中でHPVワクチン接種が進み、子宮頸がんの罹患も減少しているのに対し、日本では毎年新たに1万人が罹患し、先進諸国の中で最も深刻な状況です。子宮を失う可能性があり、進行すれば命も危険になる子宮頸がんを防ぐために、正しい知識を伝える大切さを確認し合いました。


驚いたのは、ワークショップの後に寄せられたアンケートで、参加者のほとんど全員が「日本にも包括的性教育が必要だ」と回答したことです。
「もっと早く知っていれば、自分も大切な人も、傷つかずに済んだかもしれない」―――そんな後悔を次の世代に引き継がず、誰もが「人生と性」を自分らしく、喜びをもって生きられる社会をつくるために。チャリティランナーの皆さまのご支援を通して、日本各地で「気づきの種」をまくことができました。
次の「一歩」を、また一緒に。
ケニアと日本で、包括的性教育を一歩ずつ着実に前進させていく。この活動は、東京マラソン2025チャリティのご寄付の他、ジョイセフが3月の国際女性デーに向け、女性の健康と権利の大切さを伝えるために実施するホワイトリボンランなど、関係大会からの寄付金を活用して実施できました。ご支援いただいた皆さまに感謝申し上げます。 私たちのゴールは、「世界中の誰もが健康で、自分らしく生きられる世界」です。これからも、皆さまと一緒に、次のコースを走り出せることを楽しみにしています!

[公益財団法人ジョイセフ]は、東京マラソン財団チャリティ RUN with HEARTの寄付先団体です。
公式ホームページ:https://www.joicfp.or.jp/jpn/
